カビルウィスパー
幸一は学校から帰ってくるなり、女を連れてどこぞのデパートにやってきた。衣服が男物だけでは困る、というのが理由だ。その他にも食材の買い出しもするようだ。
だが、幸一にとっていくつか困ったことがあるようだ。
一つは女の美貌だ。はっきりいって目立つ。顔の彫りが深く、瞳の黒と頭髪の銀の輝きがこれまた絶妙にあっている。背が百七十近くあり、スタイルも良く、モデル並みの体型なのだから、十中八九、擦れ違う人間が振り向くのも当然といえば当然。
そしてもう一つは……
「ねえ幸一幸一、あの光る建物は何? あ! あの走っている四つの輪は?」
この、騒々しさだ……女は先程から人目も憚らずに幸一に質問しっぱなしだ。どうもこの天使の女には、人間界の一般常識というものが著しく欠如しているらしい。
『意識が神に支配されていたとはいえ、この世界には何年かいたんだろう?』という幸一の問いには、『ん〜……人間の時間で言うなら、墜とされて半年にはなるんだけど……覚えていることって意外と少ないのよね。戦った相手の顔とかは覚えているけど、一々その日何をして、どこに行ったとかは』とのことだ。
だから、終始こんな調子なのだ。
「どうしてあの人は耳に金属の輪っかなんてつけているの? 新手の拷問? それにしてもカラフルな髪の色をしているわね、みんな。あ、ちょっと、ねえ、あそこの人は……」
珍しい。
本当に珍しい。
こういった日常の一場面で、幸一が表情を、しかも眉をしかめる苦悶の表情を見せるのは。